エリート脳外科医の独占愛に、今夜も私は抗えない

下着類を探して、昨日までとは違う引き出しを開けたところで、ふとあるものに目が留まった。


「これ……」


そっと手を伸ばして取り出したのは、四センチほどの厚さの日記である。革製の表紙でずっしりとした重みがある。

それは母、すみれがいつもリビングで本を読んでいる合間に綴っていたもの。闘病中は病院のベッドで毎日書いていたものだった。

亡くなったときに病室の引き出しから楓が引き取ったが、ダイヤル式の南京錠が付いているため開けられずにしまっておいたのだ。

久しぶりにそれを手にし、懐かしさが込み上げてくる。

『なにを書いているの?』と何度か質問したが、その度に『内緒』と微笑む母の顔は少女のように愛らしかった。

亡くなった当時、いっそダイヤルごと壊してしまおうかと兄と話したときもあったが、鍵をかけてまで秘密にしていたものを暴く必要はないだろうとの結論に達していた。

あれから十年。父の妹の尚美が、両親の過去を明かしてくれたように、この日記もそろそろ読んでもいい頃ではないか。
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