エリート脳外科医の独占愛に、今夜も私は抗えない
芳郎は軽く首を振りながら、呆れ返ってため息をついた。
「お父さんたちの結婚記念日だったの」
「結婚、記念日……?」
まさかそんな。芳郎の目がそう言っていた。
大切な日記にかけた鍵のナンバーが、ふたりの門出を祝う日だとは思いもしなかったのだろう。自分にとっては大切な日でも、妻にとってはほかの男のものになる憂いに満ちた日だと考えていたから。
「お母さん、お父さんにこれを読んでほしかったんじゃないかな。ふたりにとって大事な記念日にしておけば、絶対にお父さんは読んでくれるだろうって思って」
日記にしたためた夫への想いを、いつの日か知ってもらいたかったに違いない。それなのに亡くなってから十年間も放置してしまった。
「だから読んであげて。お願い」
楓が差し出した日記を戸惑いながら受け取った芳郎は、まだどうしようか迷っている様子だ。おそらく今、激しい葛藤の中にいるのだろう。
慎一への未練を突きつけられるのか、それとも結婚記念日を大切なナンバーにした理由が明かされるのか。