エリート脳外科医の独占愛に、今夜も私は抗えない
その後、スズキのソテーや国産牛ロースのグリエなど、ゆっくりとサーブされる料理はどれも絶品で、お腹が満たされていく。
他愛のない話をしながらデザートのフォンダンショコラが出される頃には、とうとうディナーの終わりが見えてきた。
早く退職の話をしなければと頭ではわかっているのに、その話題を振ろうとすると途端に口が重くなる。
退職が本決まりになれば、雅史とこうして食事をするのは今夜が最後。お腹と同時に満たされているはずの心が翳りそうになったそのとき、秘書として雅史に初めて会った日のことが蘇る。
医事課のマネジャーに連れられ、雅史の部屋を訪れたときの彼の顔は今とは全然違っていた。
『秘書は必要ない』
冷たく言い放った彼の気難しい表情はよく覚えている。
新しい仕事にワクワクしていた楓は目が点。どうしてもと請われたのではなかったのかと、彼のその言葉に面食らい、傷ついたものだ。
最後にはマネジャーに説得されて雅史も了承したが、容姿の良さはさておき、初めて近くで接した印象は決して良くなかった。いや、悪かったと言ってもいいかもしれない。