エリート脳外科医の独占愛に、今夜も私は抗えない
両手を顔の前で合わせ、軽くウインクまでつけて雅史が謝る。
そんなふうにされたら、どんな悪事でも許してしまいそうだ。すべてにおいて恵まれたイケメンは危険である。
前任者とそりが合わず、いっそ秘書など面倒だと考えて冷たい言い方になったのかもしれない。
「だけど、その言葉のおかげで認めてもらおうと頑張れたので結果オーライです」
楓にもタイムリミットがあり、長く勤められないと自分でもわかっていたが、せめて仕事で認めてもらおうと決意。これまでほとんど必要のなかった医療の知識を得るために雅史の書架から専門書を借りて読んだり、脳神経外科の医局やナースステーションにもしばしば足を運んで医師や看護師たちと積極的に関わったりしてきた。
深い理解とまではいかなくても、広く浅く知識を得て彼の要求に素早いレスポンスができるようになり、さらに先手を打てるようになると雅史の態度は軟化。会話の合間にちょっとしたジョークを飛ばし合うようになった。
仕事を通したそれがとても楽しくて、心を弾ませて出勤する毎日を送ってきたが……。
それをもう、手放さなくてはならない。居心地のいい場所にいられなくなるのがいよいよ現実味を帯び、急に胸が苦しくなってきた。