エリート脳外科医の独占愛に、今夜も私は抗えない
「今ならキミは一カ月レンタル無料じゃなかったか?」
「それはコーヒーの話で」
「スイートルームなら考えるとも言っていた」
「言いました。でも……」
雅史が本気でそうするとは思っていなかった。
「俺の記憶では交渉は成立したはずだけど?」
雅史が探るように楓の目を見つめる。
急に言葉が不自由になり、いつものように会話をポンポン繋げられない。迷って悩んで、いろいろな返答が頭の中でぐるぐる回る。
なにしろ雅史の真意が掴めない。部屋までとった自体がジョークの可能性だってある。雅史が楓の無謀な願いを叶えようとするわけがないから。
――でも。
たったひとつだけたしかなものが、楓にはあった。
好きでもない人と結婚する前に、雅史と朝まで一緒にいたい。それが一夜限りだとしても。
その願いが、叶う瀬戸際まできた。
乗り込んだエレベーターが軽い音を立てて止まる。
「無理やりは俺の本意じゃないから最後に聞くが、海老沢さんがそれでも冗談だったと言い張るのなら、ここで降りずに扉を閉める」