エリート脳外科医の独占愛に、今夜も私は抗えない
雅史に距離を縮められたため、足をじりじりと動かし後退していく。そのうち背中に壁があたり、それ以上下がれなくなった。
誰かに見られやしないかと気が気でない。
「キミは一夜だけの関係だと割りきって俺に抱かれたのか。そこに気持ちはなかったのか」
壁に手を突き、楓を見下ろす。切なさの滲んだ眼差しに胸の奥深くまで射貫かれ、呼吸すら苦しい。
それでは雅史には〝気持ちはあった〟というのだろうか。
彼の放った『キミも俺と同じ気持ちじゃなかったのか』という言葉が頭の中をぐるぐると渦巻く。
いや、そんなはずはないと打ち消すいっぽうで、そうだったらいいのにと期待せずにはいられない。
息が詰まるほどの緊迫した空気の中――。
「楓」
雅史が切実な声で名前を呼んだそのとき、彼の白衣のポケットでスマートフォンがヴヴヴと震えはじめた。その瞬間、ふたりの間に取り巻いていた緊張の糸がふっと緩む。
雅史は小さなため息をついてポケットからスマートフォンを取り出した。