エリート脳外科医の独占愛に、今夜も私は抗えない

彼が耳にあてたそれから《救急搬送です》と漏れ聞こえてくる。


「意識レベルは?」


確認しながら離れていく雅史を見つめながら、楓は細く長く息を吐き出した。しかし胸は以前として高鳴っている。

彼の口から発せられた言葉を一字一句頭の中で繰り返し、自分に都合のいいように捕えそうになったため慌てて頭を振る。

(先生が私を好きなんてありえない)

この一年、好意を感じる場面なんて一度もなかった。
だから違う、そうじゃないと心を宥めすかした。


「脳梗塞を疑われる患者が搬送されたそうだ」
「私も仕事に戻りましょうか」
「いや、キミは大丈夫だ。お疲れ」


そう言い置き、雅史が白衣を翻して立ち去っていく。
戸惑いに揺れながら雅史を見送る楓は、少し離れた場所から険しい視線を注がれていることに気づきもしなかった。
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