社長さんの溺愛は、可愛いパン屋さんのチョココロネのお味⁉︎
(何じゃろ。けど目、開けたらいけん言われたし)

 ソワソワと落ち着かない実篤(さねあつ)だ。

(何だか間近でじーっと顔を見詰められちょる気がするんは気のせいじゃろうか)

 …………。
 …………。
 …………。
 …………。

「あ、あの……くるみちゃん?」

(さすがに間が空きすぎじゃろ!)

 そう思って声を掛けたら、ビクッと繋いだままの手が跳ねる気配があって、「ごっ、ごめんなさいっ」と慌てたように手を引かれた。

(――な、何じゃったん?)

 実篤は、優に数十秒は目を閉じたまま待ちぼうけさせられた気がする。
 視界を遮断していたから実際より長く感じたというのはあるかもしれないが、それにしたって、だ。

 目を閉じていた時、くるみの吐息を本当にすぐ近くで感じたように思った実篤だ。

 まるでキスでもするみたいな……そんな距離にさえ錯覚してしまったのは、実篤がくるみを意識しすぎているせいだろうか。

 何故か小走りになったくるみに、容赦なくグイグイ手を引かれて、半ばつんのめるようになりながら、「ちょっ、くるみちゃん、俺、目ぇつぶっちょるけん、結構怖いんじゃけどぉ〜!」と弱音を吐いたときには、そんな疑問、綺麗さっぱり吹き飛んでしまっていた。


(そもそも出されたスリッパ小さくて歩きづらいし!)
 などと思ってから、
(そういやぁ、今いるキッチンはともかく、さっきからちょいちょい畳の()をスリッパで歩いちょるけどええん!?)
 とまたしても関係ないことが頭の中をぐるぐるした実篤だった。
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