一夜限りのはずだったのに実は愛されてました
「紗夜、紗夜」

私は肩をふさぶられ目を開けると夕日が差し込んでいた。

「こんなところで寝てたらダメだ。風邪ひくぞ」

そういうと私の手を握ってきた。
拓巳さんの温かい手に包まれるとほっとする。

「ほら、冷たくなってきてる。暖房がついていても寝るなら何かかけないとダメだ」

「うん……」

「紗夜。何かあった?なんだか元気ないな」

拓巳さんにはわかってしまったみたい。
でも話す気にはなれなかった。
彼も無理に聞き出そうとはしなかった。
甘いココアのように私を甘やかしてくれる。

「紗夜、ご飯食べられる?」

「少しなら。だいぶ吐き気も落ち着いてきてるし、私が作りますよ」

立ちあがろうとすると拓巳さんは私をまた座らせる。

「俺が作るから。オムライスでいい?」  

「はい!」

私の部屋に来てから拓巳さんは家事をほとんどしてくれる。
本当は洗濯とか恥ずかしいけど、家族になるんだからと言われてしまう。
家族になる、かぁ。
この子のおかげで家族にさせてもらえるけど、私は拓巳さんの恋人にはなれなかったな。
そう思うと胸の奥がチクリと痛む。

「出来たぞー」

「ありがとうございます」

「紗夜、体調が良くなってきてるなら両親に挨拶して入籍しないか?引っ越しもしよう。俺のマンションの隣に建った新築が売り出してるんだ。あそこなら便利だしどうだ?明日見に行かないか?」

両親への挨拶は気が重い。
正直なところ、今さっき電話を切られたばかりなのでもう親子の縁は切られたと思う。

「拓巳さんの気持ちは嬉しいけど両親への挨拶はもういいです」

紗夜?と心配そうに顔を覗き込んでくる。

「さっき父と話しました。なのでもういいです。結婚のことも伝えましたから」

「そうか。ならひとまず明日マンションを見に行こうな」

頭を撫でられ、私は頷いた。
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