一夜限りのはずだったのに実は愛されてました
福岡に着くといつものようにお兄ちゃんが待っていてびっくりした。拓巳さんが連絡をとってくれたようだ。

「紗夜、久しぶり。松下さん、初めまして。兄の貴文です」

「松下拓巳です。電話でばかりで失礼しました」

「こちらこそ、直接話したいと思っていたのに電話ばかりで本当に失礼なことをと思っていました。さ、乗ってください」

お兄ちゃんはいつものワンボックスで私たちを乗せてくれた。
私は緊張で顔がこわばっているのがわかる。
さっと拓巳さんが手を握ってくれ、その温かさにほっとした。

「紗夜、ちょっとお腹大きくなってきてるな。もうどっちか分かるの?」

「まだだよ」

「そうか。今年中にはおじさんになるんだな。感慨深いよ」

お兄ちゃんは相変わらず優しい物腰で私と話してくれる。
昔からお兄ちゃんは私には優しかったなぁと思い出した。

家が近づくにつれ父に会うのが心配になってきたが拓巳さんの手に励まされ、どうにか家の前に到着した。
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