一夜限りのはずだったのに実は愛されてました
「娘を、紗夜をよろしくお願いします」

父の言葉に驚いた。

「私は紗夜が可愛くて手元に置いておきたかった。けれど紗夜の幸せは東京にあるようです。ここからは遠く離れているので何もしてあげられません。どうか、よろしくお願いします」

私が可愛い?
いつも起こってばかりで私のしたいこと全てに反対してきたくせに。

そう思っていたら母がお茶を持ってきながら横から口を出してきた。

「紗夜、お父さんは紗夜が可愛くて仕方ないのよ。東京にだって行かせたくなかったの。自分の見えるところにいて欲しかったのよ。でも紗夜が自分で行きたいって決めた事だからって説得したら泣き泣き送り出したんだから。お見合いも福岡にいて欲しいから受けたの。もちろんうちの家業のためにもなるけれど、それよりも福岡にいて欲しいって気持ちが大きかったのよ」

「母さん!」

「お父さん、言わなきゃわからないのよ。紗夜だってあんな人を押しつけられたって思ったままでしょ?それにしてもあの人は最低だったから本当に断ってよかったわ。紗夜にはああ言ってたけどお父さんだって断ろうかと悩んでたのよ。もちろん仕事のお付き合いは大切だけど、それでも日野さんのところに嫁に出すなんてちょっとないわねって」

「そうだったの?」

「地元に帰ってくることになるし、いくつも旅館を持ってるからお金に困らないしいいかなと思ったけど人と成りは最低だったわね。人から聞けば悪い噂ばかりだったのよ」

「松下さんに言われたように紗夜はコマじゃない。だから私たちの思い通りにはならないってことがよくわかりました。紗夜の幸せは東京にあるようです。どうか幸せにしてやってください」

改めて父が頭を下げると母も隣で頭を下げてきた。
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