独占欲強めな御曹司は、溢れだす溺愛で政略妻のすべてを落としてみせる
それはもちろんわかっている。紆余曲折あったし電撃的ではあったが、結子と奏一はしかるべき手順を踏んで正式な夫婦になったのだ。まだ準備不足な点があることも否めないが、二人の関係は落ち着くところに落ち着いた。
けれどまだ順応できない。奏一の妻として必要な振る舞いは出来るが、夫婦になったことを頭では理解していても、心はまだまだついていかない。
そんな結子の葛藤を見抜いたのだろうか。突然身体の距離を近付けて耳元に唇を寄せた奏一が、いつもより低い声で結子の名前を呼ぶ。
「なあ、結婚した相手は俺だろ? 結」
「……っ、響兄さまの真似するの、やめて」
響一の話し方を真似され、恥ずかしさから顔を背けてしまう。
二人は態度だけではなく、結子の呼び方も異なる。奏一は昔は『結子ちゃん』と呼んでいたが、大人になってからは『結子』と呼び捨てるようになった。対する響一は昔も今も簡潔に『結』と呼ぶ。
それが響一だけの特別な呼び方だと思っているわけじゃない。失恋の痛みを思い出すからでもない。
ただ恥ずかしかった。呼び方そのものではなく、身体を密着されて肩を掴まれ、甘さを含んだ低い声で『結婚したんだから』と再認識させられることがたまらなく照れくさかった。