独占欲強めな御曹司は、溢れだす溺愛で政略妻のすべてを落としてみせる
(や、それより……!)
仮にそうだとしても、それは後から考えることだ。今はとにかく、この気持ち悪い手つきからどうにか逃れたい。
この場には二人の他に誰もいない。ねっとりとした声と手つきに身体を触られても、拒否を妨げるように腕を掴まれても、結子にはどうしていいのかわからない。
気持ち悪い。なのに恐怖のせいか手も足も動かない。不思議なことに声も出せなくなってしまう。
怖い。気持ち悪い。怖い。
どうしよう、どうしたら……と考える。けれど身体も頭も疲れているせいか、だんだん思考が混乱してくる。
自分が何をするべきかもわからなくなる。
「――上野さん」
「!」
あまりの恐怖に硬直したまま泣きそうになっていると、鼻の奥がツンと痛む直前に、後ろから別の男性に声を掛けられた。
その男性の声を聞いて顔を上げた瞬間、結子は別の意味で泣きそうになってしまった。
「ああ、総支配人。お疲れさまです。今日は急なことで本当に驚き――」
「妻から手を離して頂けますか」
奏一の低い声が上野の言葉を遮る。明らかに怒気を含んだ声音に結子も驚いてしまうが、今はそれも気にならない。
奏一の存在がここにある。ただそれだけで、結子は泣きたくなるほどに安心した。
急に身体が力を取り戻す。動けるようになった身体を奮い立たせて、上野の腕を勢いよく振り解くと、そのまま奏一の元へ駆け寄る。
片手を広げて結子を迎え入れてくれる腕の中に自らの足で飛び込むと、そのまま奏一の顔をじっと見上げる。