独占欲強めな御曹司は、溢れだす溺愛で政略妻のすべてを落としてみせる

「今から役員会議室へ来て下さい」
「え、いえ……私はこれからパーティーの最終チェックが」
「あなたの本日の業務は別の者にお願いしてあります。仕事のことは考えなくて結構です」

 奏一に突き放されて、上野の表情が絶望の色に変化した。仕事を盾にして逃げようとしたようだが、それを理由に逃げられるはずはない。

 もちろん奏一は妻である結子に悪戯をしようとしたことにも怒っているだろう。だが話の主はそこではない。

 今朝、奏一が口にした『責任者がとんでもないことやらかしてた』という台詞。その責任者本人と思われる上野。たった今結子の身に起こったこと。女性が多いであろう取引先とのトラブル。

 ――想像するに容易い。おそらく彼がしていたことは、卑劣極まりない最低の行為だ。

「業務命令です。早くして下さい」
「……は、い」

(わーお、怒ると怖いんだ~……)

 上野の年齢を見た目から判断するに、四十代半ばといったところだろうか。もしそれが当たっているならば、彼は奏一より一回りほど年上ということになる。

 とはいえ総支配人である奏一にとって、部門の長である上野は部下の一人。ならば敬語を使う必要はないはずなのに、丁寧な言葉で静かに怒る表情を見ると、敬語で話される方がむしろ冷徹で激しい怒りの印象を受ける。絶対零度の氷塊と灼熱地獄の業火を同時にぶつけられたように感じる。

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