離婚を申し出た政略妻は、キャリア官僚の独占愛に甘く溶かされそうです

 器用で人付き合いも得意そうに見えていた彼だが、その裏で孤独に苛まれていたのだ。

 父が言っていたような〝策士〟で〝女性を手懐けるのもお手の物〟というような噂も、傷つくのを恐れて恋愛に深入りできず、どんな女性とも広く浅くしか付き合ってこなかった経験のせいらしい。

 だから、ギリシャ行きを私に告げる勇気もなかなか出なかった。すべてを理解した後では、彼を責める気持ちなどどこかへ行ってしまった。

「私はとっても寂しいです。……できることなら一緒に行きたい」

 緩く波打つ彼の髪に指を差し入れ、手櫛で整えながら呟く。

 行為の最中も、私は何度も彼に伝えた。離れたくない。一緒がいい。真紘さんのいない生活なんて、耐えられない。

 真紘さんはその度に「ありがとう」と切なそうに笑い、私の奥まで自分の熱を届けた。

 決して、「じゃあ連れて行くよ」とは言わずに。

「もう少しだけ時間があるから、考えてみよう。佳乃、まだ仕事がどうなるかわからないんだろう?」
「そうですけど……」

< 111 / 147 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop