離婚を申し出た政略妻は、キャリア官僚の独占愛に甘く溶かされそうです

「天馬モーターズに入ったのは親父のコネだが、当初はロボット事業部にいたんだ。親父が社長だからって、今どき同族経営一辺倒なんて時代遅れだろ? だから、俺は親父の跡を継ぐ気なんかなく、ずっと技術者でいるつもりだった。……それなのに」

 専務はその先の言葉を継がなかったが、今の彼の立場を考えれば、予想できることだ。

 社長は彼の意思に反して、経営の仕事を引き継がせようとした。専務は大好きなロボット開発の仕事から外れなくてはならなかったんだ。

 だから、仕事にも身が入らないのかもしれない。

 雨音さんに過去の話を聞いた時と似た、複雑な感情がこみ上げる。一件悩みを抱えていなさそうに見える人でも、心には人それぞれ、大小さまざまな傷を受けているんだと改めて感じる。

 でも……雨音さんがカップルクラッシャーとしての自分の行動を〝無駄なこと〟だと受け入れられたように、専務も気づくべきだ。自分のしていることは、誰のためにもならないって。

 私は意を決して、専務の目を見つめた。

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