離婚を申し出た政略妻は、キャリア官僚の独占愛に甘く溶かされそうです
「だからって、仕事を蔑ろにすることで鬱憤を晴らすのは間違っています。雨音さんへのセクハラも、どんな理由があろうと許されることではありません。個人的な不満を関係のない他人にぶつけて、いいわけがありません……!」
言いながら、ドクドク心臓が鳴っているのがわかった。以前雨音さんが『楯突いたら私なんて握りつぶされる』と言っていたのを、今さら思い出す。
今度こそクビかもしれない。でも、このまま専務が自分勝手なことを続けるようなら、天馬モーターズの未来は危うい。後悔する必要はない。
強気でいようと決めるも、背中にはだらだらと冷や汗が伝う。
専務はしばらく不意を突かれたような顔をしていたが、やがて鼻から息を漏らして笑った。
「おもしろいな、あんた」
「へっ?」
間抜けな声で返事をすると、専務が近づいてくる。目の前まで来ても歩みを止めない彼に思わずじりじりと後ずさるが、やがて背中が壁にぶつかった。
「だが、あんたの考えは見当違いだ。俺はただ憂さ晴らしがしたいわけじゃない。専務なんてめんどくさい役職を、確実に降ろされるような不祥事を起こしてやろうと思ってるんだ。例えば……」