『歌う人』
「おい少年」
 誰かに呼ばれたような気がしたので立ち止まり振り返ったのだが、その様子を見ていたお姉さんが彼を呼んだ。
「どうかしたのか」

「今、妹に呼ばれたような気がしたから」
 彼は答える。

 昼は過ぎ、陽は傾きかけている。途中、何度も何日も休憩をとってはきたけれど、旅慣れぬ少年は何度も何日も根をあげていた。お姉さんの歩く速度が速かった、というのも原因の一つではあるが。
 最初彼はその速度についていこうとした。だが、少しでも気を抜くと置いていかれてしまう。そんな彼の様子にお姉さんが気付いたのは、旅を始めて三日目のお昼の少し前だった。申し訳ない、気をつけるべきだったな、とお姉さんは言った。それでも気を抜くとお姉さんの歩く速度はあがってしまう。

 お姉さん時間ではいつもより少し早いという時間であるが、だがそれが毎日続けばいつもと同じ時間になってしまうもの。暗くなる前に本日の宿を探さなければならない。いつものことだ。少年の体力を考えてのことだった。それもいつものことだ。

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