雪山での一夜から始まるような、始まらないようなお話。
「まだ冷え切ってるよな?」

 私の手を掴んでない方の手は、いつの間にか私の身体を撫でるように這い回っていた。
 寒い部分と熱い部分の落差が激しくて、くらくらする。

「手足の先まで温めてやる」

 そう宣言すると、進藤は首筋に唇を寄せた。
 ぺろっと舐められて、鼻にかかった息を漏らしてしまう。

「……んっ……」

 それと同時に、さわさわと脚を撫で下ろされて、下半身がぞわっとした。

「ん? そんな色っぽい顔して、まさか感じてるのか?」
「そ、そんなわけないじゃない!」
「じゃあ、温め続けていいよな?」
「こ、こんなことする必要ある?」
「これが一番手っ取り早い。それに、このままだとお前、温まらないだろ」

 確かに、芯から凍りついたような身体はストーブの火でも溶ける気配はないけれど、さっき進藤に含まれた指はすっかり温まっている。
 おもしろくないけど、しょうがない。
 私はうなずいて、「好きにすれば」とつぶやいた。

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