雪山での一夜から始まるような、始まらないようなお話。
 しばらく二人で息を荒らげ、抱き合っていた。
 進藤の思い通り、身体はポカポカで汗ばんでさえいる。
 離れようとすると、チュッチュッとキスをされた。
 こんな甘い顔の進藤も見たことはない。やっぱり顔がよくてムカつく。

「もういいでしょ? 十分温まったわ」

 立ち膝をして、彼を中から追い出すと、進藤が驚愕の表情を浮かべていた。
 
(なにをそんなに驚いてるのかしら?)

 また身体が冷えるといけないから、ずり落ちていた毛布を二人に掛けなおそうとして、彼のものを直視してしまう。

「それ、さっさと始末したら?」
「あ、あぁ……」

 進藤は投げやりな手つきでゴムを取って結ぶと放って、デイバッグからティッシュを出すと、私の股と自分のものを拭った。
 そして、ペットボトルを取り出すと、「飲むか?」と聞いた。
 喉がカラカラだったから、有り難い。
 水を回し飲んで、ひと息つくと、私は彼に毛布を掛けた。

「……実はすげー淫乱なのか?」

 ふいに進藤がつぶやいて、私は睨む。

「はぁ? なに失礼なこと言ってるのよ!」
「じゃあ、さっきのは……」
「緊急事態だったんだから仕方ないでしょ」
「緊急事態だったら、誰にでも抱かれるのか?」
「そんなわけないでしょ!」
「じゃあ、俺だか……」
「そんなわけないでしょ!」

 なんだよ、それと進藤はむぅっと口を閉じた。

(緊急事態じゃなかったら、あんたとこんなことしてないわよ!)
 
 結局、私のカバンに入っていたチョコを分け合い、抱き合って眠った。
 寒いんだからしょうがない。
 そして、夜更け、「寒い」とつぶやいた進藤にもう一度、貪られた。温まった。



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