雪山での一夜から始まるような、始まらないようなお話。
(あれ〜? どうやってかえってきたんだっけ?)

 ポーッとしていると、いつの間にか現れた進藤がグラスを差し出してきた。

「ほら、夏希、水飲め」
「あれ? しんどー、どうしてうちにいるの?」
「バカ、ここは俺んちだ。っていうか、なにお持ち帰りされそうになってるんだよ!」

 不機嫌そうな進藤にバカとか言われて、ムッとする。

「おもちかえり? なにを? あ、あいす、まだたべてるとちゅうだったのに!」
「お前、まだ酔ってるな? 夏希は今後、飲酒禁止! どうしても呑みたかったら、ここで呑め」
「ここで?」

 言われて、周りを見回す。
 よく見たら、自分の部屋じゃない。

「あぁーーっ、ここ、しんどーの部屋じゃない!」
「だから、そう言っただろ」

 あきれたように言う進藤の顔を両手で挟んで引き寄せた。

「ダメじゃない! かのじょいるくせに、私とはいえ、おんなのこを連れこむなんて!」
「はあ?」
「だーかーらー、つきあってる子がいるのに、ちがうおんなのこをへやに入れたらダメってこと!」

 私はわかりやすく説教してやった。
 進藤は丸っこい目をさらに真ん丸にしている。
 まだわからないみたいだ。

「にぶいなー。わかんないかなあ? 私だったらカレのへやにおんなのこが来てたらイヤだわ。だから、かえるね」

 立ち上がろうとしたら、進藤が私の両肩に手を置いて、もう一度、座らせた。

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