雪山での一夜から始まるような、始まらないようなお話。
「なによ?」

 ヤツを見上げると、見たこともない怖い顔をしていた。

「誰が誰と付き合ってるって?」

 すごく低い声で聞かれて、ビクッとする。
 
(なんかすごくおこってる?)

 進藤が暗い瞳で顔を近づけてきた。

「なあ、俺が誰と付き合ってるって?」
「よ、よしいさん」
「誰がそんなことを!?」
「みんな言ってるよ? それにこないだおもちかえりしたんでしょ?」
「はあ? 誰を?」
「よしいさんを」
「……ふっざけんなよっ!」

 突如、進藤が怒鳴り、びっくりする。
 それだけじゃなく、進藤がソファーを叩いたから、驚いて、身をすくめた。

「お前、俺をそんなヤツだと思ってたのか! ほいほい女を乗り換えるヤツだと? それに、お前……俺が吉井さんと付き合ってもなんとも思ってないんだな」

 クソッとまた進藤がソファーを殴った。
 彼がなにをそんなに怒っているのかわからない。

「お前はやっぱり身体だけだったんだな。あんなに好きだって言ったのに。くそっ、お前は酔うと誰でもいいのかよっ! 俺が欲しかった言葉を簡単に立石さんに言いやがって!」
「たていしさん?」

 なんでそこで立石さんが出てくるのかわからない。
 わかるのは、進藤がとても傷ついた顔をしてること。
 なにか私がやらかしてしまったということ。

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