雪山での一夜から始まるような、始まらないようなお話。
(こんなにしんどーがおこるなんて、私はなにをしたの? どうしよう? きらわれちゃう!)

 見捨てられる恐怖に襲われて、私は急いで謝った。
 
「……ごめんなさい。なにか私、わるいことした?」
「もういいっ。……もういいよ。わかった。夏希の気持ちが俺にないのは十分身に沁みた」

 ソファーに拳を打ちつけて身を震わせていた進藤が疲れたようにつぶやいた。
 その沈んだ声に胸がずくんと痛む。

「しんどー?」
「ちょっと頭を冷やしてくる」

 私の呼びかけに視線さえもくれずに、進藤がふらっと立ち上がり、私に背を向けた。
 
(行っちゃう……! やだっ!)
 
 猛烈な衝動が湧き上がって、私は必死で叫んだ。叫んで進藤を引き留めようとした。

「……っ、いかないで! おいてかないで! おねがい! ごめんなさい、ごめんなさい!」

 言いながら、ボロボロと涙が出てくる。
 なんで泣いているのかわからない。
 でも、込み上げる嗚咽をこらえて、一生懸命、懇願する。

「こっちをみて! ごめんなさい! なつきのどこがわるかったの? おねがい、なおすから、がんばるから、おいてかないで……おねがい……」

 必死で進藤に呼びかける。

< 82 / 95 >

この作品をシェア

pagetop