極秘出産でしたが、宿敵御曹司は愛したがりの溺甘旦那様でした
 うしろ向きになりそうな思考が彼のおかげで前を向ける。

「衛士は、もっと私に望むことはないの?」

「望むこと?」

 唐突な私の質問に、衛士は目を丸くしておうむ返しをしてきた。

「いつもしてもらってばかりだから。私も返したい」

 反省しても過去を変えられないなら、未来に活かしたい。衛士が揺るぎなく注いでくれていた気持ちに私も応えたい。

 表情を緩めず衛士をじっと見つめていたら、彼はふっと笑った。

「なら未亜が喜ぶことをしたい」

「質問の答えになってないよ!」

 気を引き締めていた私はすかさず言い返す。しかし衛士はなに食わぬ顔だ。

「なってるさ。言っただろ、未亜を幸せにしたいって。前に聞いたとき、未亜は自分の幸せは茉奈の幸せだって答えたけれど、俺は未亜自身の希望を知りたいんだ」

『い、今の私の幸せは茉奈の幸せなの。だから茉奈のことを一番に考えてほしい』

 あのときの答えに嘘はない。茉奈を最優先するのは当然で、そうしてきた。

 でも、言ってもいいのかな。願っても。

「……また美術館に行きたいな。ずっと行ってなかったから、ゆっくり絵を観たい」

「茉奈がいたら難しいよな」

 肯定しようとしてふと思い直し、私は伏し目がちになって固まった。

「違うの」

 そして口をついて出たのは否定の言葉だ。

「本当は行こうと思えば行けたの。でも、あえて行かなかっただけ」

 衛士の言う通り茉奈を連れていく場所ではないとはいえ、陽子さんに預かってもらったり、平日に代休を取ったときに行くとか方法はいくらでもあった。それでも足を運ばなかったのは……。
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