極秘出産でしたが、宿敵御曹司は愛したがりの溺甘旦那様でした
「衛士と出会った場所だから」

 いろいろなことを思い出しそうで、きっと絵に集中できない。ひとりで行けば余計に、会いたい気持ちがあふれそうで怖かった。

 自分でも気づかないふりをしていた本音を口にしてみる。

 もしかして責めているみたいに聞こえたかな?

 心配になってフォローしようとした瞬間、衛士に抱きしめられた。

「今度、一緒に行こう」

 体をひねって微妙な体勢になりつつ瞬きを繰り返す。聞こえたのは低く真剣な声だった。

「未亜の都合に極力合わせる。茉奈はうちの両親が喜んで見てくれるだろうから」

「え、衛士」

 一方的に話を進めていく衛士に思わず声をあげる。そこでわずかに回されていた腕の力が緩んだ。再び彼と目が合うと、彼はばつが悪そうな顔になった。

「悪い、いつも先走って」

「ううん」

 そこで一拍間が空く。続けたのは私だ。

「嬉しい。衛士と行くの、楽しみにしてるね」

 結婚しても、子どもがいても、衛士との約束はあの頃と変わらず私の心を弾ませる。衛士はとびきりの笑顔を返してくれた。

「ああ。俺も楽しみにしている」

 やっぱり衛士の笑った顔が大好きだ。目を奪われていたら、そっと頬を撫でられごく自然な流れで目を閉じる。予想通り唇に温もりを感じ、胸の奥がいっぱいになった。

 一度唇が離れ目を開けると、至近距離で衛士と視線が交わる。今度は私からも顔を寄せキスを再開させた。
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