極秘出産でしたが、宿敵御曹司は愛したがりの溺甘旦那様でした
「ちょっ、んん……」

 止めようにも、片方でも体に回されている腕の力は強く、キスも続けられる。こんなとき器用な彼が憎らしい。

 あっさりと際限までファスナーは下ろされ、ワンピースの生地がたるむ。肩先でかろうじて引っかかっているが、胸元を露わにする格好になった。

「あっ」

 衛士の長い指が存在を主張するように肌を撫で、さすがに声が漏れる。その弾みで口づけが中断した。

「だ、だめ」

 急いで袖を戻そうとしたが先に首元に顔をうずめられ、反射的に肩を震わせた。

「今日は、未亜の格好も態度もいつもにも増して一段と可愛いから」

 肌に密着した状態で喋られると吐息さえ刺激になる。きっと衛士はそこまでわかっていて、わざとに違いない。

 さらに彼は音を立ててその場に口づけた。

「ん」

 鳥肌が広がり、衛士は顔を浮かせて涙目になっている私を見下ろしてくる。

「この服、よく似合ってる。ただ、俺のためじゃない点だけは残念だな」

「衛士のため、だよ」

 冗談めいた言い方の衛士に対し、私は掠れた声で真面目に言い返した。

 衛士のご両親に会うからと選んだワンピースだけれど、突き詰めて考えると……。

「衛士のご両親に、ちゃんと衛士の相手として認められたかったから」

 ものすごく緊張して気を使ったわりに杞憂に終わった。

 今度こそ服を整え直そうとしたら、なぜか急に視界が揺れ、勢いよくうしろに押し倒される。
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