極秘出産でしたが、宿敵御曹司は愛したがりの溺甘旦那様でした
 世間一般では夏休みにあたるが、学生や家族連れの姿はほぼなく、平日の美術館はいつも通り空いている。

 今月末まで期間限定で開催されている印象派の企画展に、代休を利用してやっと足を運べた。空調の整った館内では外の暑さが嘘のようで、ひんやりとした空間の静けさが懐かしくホッと息をつく。

 茉奈の保育園は、親が仕事が休みでも生活リズムを崩さないために登園させてほしいというスタンスだ。

 午前中に父の病院に顔を出し、昼過ぎに私はひとりで美術館に来ていた。

 パーティーの日から不自然に衛士を避けてしまっている。家に来ることもなんだかんだで理由をつけて断ってしまい、衛士のマンションにも行っていない。もうすぐ彼との新生活が始まるのに。

 亜由美さんに言われた内容が、頭の中でずっと繰り返されて離れない。

 私、衛士のことをなにも知らなかったのかも。

『あ、あの。あなたもこの絵を観たかったんじゃないですか?』

『そのつもりだったけれど、絵を見ている君の方が気になったんだ。もう十分見させてもらったよ』

 衛士が私に声をかけてきたのは、杉井電産の娘と知っていたからとはいえ、あの場に彼がいたのはてっきり衛士も印象派の絵が好きだからだと思っていた。

 でも、それさえ私に出会うきっかけのためだったのかもしれない

 衛士は美術史や画家に詳しく、衛士の実家を訪れて納得した。けれどあの階段のギャラリーに飾られている絵は、どれも印象派の作品ではなかった。

 絵に詳しい人の方が、好みがはっきりしている場合も多い。
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