極秘出産でしたが、宿敵御曹司は愛したがりの溺甘旦那様でした
『幼馴染みで彼をよく理解している私と結婚させようかなんて話していたくらいだの』

 亜由美さんは衛士のことを私よりもよく知っているし、理解している。衛士も彼女の前でなら素でいられるんだろうな。

 卑屈になりそうな思考を必死で振り払った。とにかく衛士と一度話すべきだ。

 彼のよき妻にならないといけない。茉奈にとっていい母親にならないと。そのためには弱音なんて吐いていられない。

 そのとき、手の甲にぽつりとなにか冷たいものが当たった気がした。え?と真上を見上げた瞬間、ザアアッと葉が揺れる音とともに勢いよく雨が降ってくる。

 ゲリラ豪雨という言葉がまさにぴったりで、私は慌てて美術館の屋根のあるところまで足早で向かう。

 その間、数十秒にも満たなかったが、遠慮のない雨に晒された私は、ハンカチ一枚ではどうしようもないほど髪も服も濡れてしまった。

 ああ、やってしまった。

 薄手のワンピースは肌に張りつき、体温を奪っていく。反射的に身震いする体をぎゅっと抱きしめた。

 気づけば空は真っ暗だ。雷さえ落ちてきそうで、あまりの天気の変化に驚きつつ夏らしいなとぼーっと考える。

 ひとまず美術館で傘を借りるか、近くのコンビニまで走って傘を買うかしないと。茉奈の迎えもある。この状態で公共交通機関はしのびない……とはいえ、タクシーを捕まえられるかな。

 あれこれ思索するも、最終的には己の愚かさにため息しか出てこない。
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