極秘出産でしたが、宿敵御曹司は愛したがりの溺甘旦那様でした
「未亜が好きだから。未亜と一緒なら悪くない。そう思える」

 真剣な面持ちで告げられ、私は硬直した。とっさに意味が理解できない。その代わりあっという間に視界が滲んでいった。

「……なにそれ」

 上擦った声で短く返すと、衛士は切なげに顔を歪める。

「もう嘘はつかないって言っただろ。正直、紅茶も好きじゃなかった。印象派よりもどちらかといえば写実派が好みなんだ。けれど、そうやって凝り固まっている俺の好みを、全部未亜が変えていった」

 そっと私の頬に触れた彼の指先は雨のせいか緊張しているのか、冷たく感じた。でも嫌だとは微塵も思わない。衛士は切羽詰まった表情で言葉を紡いでいく。

「どんな状況も前向きに捉えて自分の中で解決できる。そんな未亜が眩しくて、それでいて全部溜め込んで弱音を吐けない未亜が愛しくてたまらなかった」

 足下には、衛士が持っていた傘が転がっているが、彼は気にせず私から視線を逸らさない。私も瞬きひとつせず、唇をきつく噛みしめ、彼を真っ直ぐに見据えた。

「未亜と別れて自分がいかに馬鹿だったか思い知った。最初に未亜についた嘘のせいで今も未亜を不安にさせているなら、何度だって言葉にするし態度で示していく」

 水分を含んだ髪や服の裾から、ポタポタと水が垂れて体温を奪っていく。

 屋根があるとはいえ風やコンクリートに打ちつける勢いで細かい霧のような水滴が肌にぶつかり、気がつけば衛士も濡れていた。

 世界から自分たちだけ遮断されている感覚だ。衛士しか目に入らない。
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