極秘出産でしたが、宿敵御曹司は愛したがりの溺甘旦那様でした
 車の中との温度差にぞくりと身震いする。車を濡らすのを防ぐためにも、上着を渡されたのは正解かもしれない。

 とはいえシャツ一枚で衛士は大丈夫なんだろうか。チラリと運転席に目を遣る。

「心配しなくても、俺は未亜と違って直接降られていない」

 こちらの言いたいことはお見通しらしい。衛士は私を一瞥してすぐに前を向く。

「それに、そんな目に毒な格好であれ以上、あそこにいさせられない」

 どういう意味なのかと改めて自分の服装を確認する。そこで私は目を剥いた。淡い色のワンピースは肌に張りつき、下着の線や柄までくっきりと透けている。

「わっ!」

 隠すように衛士のジャケットを前で合わせて身を縮めた。

「ご、ごめん。見苦しいものを……」

 彼の顔が見られないままその場で小さく謝罪する。居たたまれなさが増す一方だ。

「そういう話じゃない。無防備な未亜を誰にも見られたくないんだ」

 ところが続けられた内容に、私は彼を二度見した。固まっている私に、信号で停まった衛士がこちらを向く。

「俺の前だけにしてくれ。じゃないと、閉じ込めるぞ」

 いつもの冗談だと応戦する形で返そうとしたが、どこか真剣味を帯びた彼の声に肩をすく縮めた。

「気をつけ……ます」

 すると隣から手が伸びて頭を撫でられる。余裕たっぷりの横顔に胸が高鳴った。そして私は言えていなかった言葉を思い出す。

「ありがとう、衛士。迎えに来てくれて」

「未亜のためならどこにでも行くさ」

 間髪を入れずに、今度は幾分か軽い口調で返事がある。

「大事な奥さんを迎えに行くのは夫の役目だ」

 彼の答えに私も自然と笑顔になった。
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