極秘出産でしたが、宿敵御曹司は愛したがりの溺甘旦那様でした
 距離的に近い衛士のマンションへと向かった。今日の仕事はもう大丈夫らしい。

 足早で玄関に辿りつき、先に衛士が部屋に上がってタオルを取りに行く。ややあってネクタイをはずした衛士がふかふかのタオルを持ってきた。

 頭にかぶせられ、ホッと息を吐く。ここに泊まったり、引っ越しの荷物などをある程度運んでいるので私の着替えもおいてある。

「今、風呂を沸かしてる」

「あ、大丈夫。着替えてこのまま茉奈の迎えに行くから」

 私の返事に衛士は眉をつり上げた。

 ここからタクシーで保育園に向かうなど逆算したら、ゆっくりお風呂に入っている時間はなさそうだ。道も混んでいるかもしれないし、さっさと着替えなくては。

「衛士こそ、ゆっくり温まって。あ、その前に洗面所を借り、きゃっ!」

 最後まで言えなかったのは、突然衛士が私の膝下に腕を回し、ひょいっと抱きかかえたからだ。脱ぎかけの湿った靴が玄関に転がり、反射的に落ちないよう私は彼にしがみつく。

 この体勢のせいで密着した部分からまた衛士が濡れてしまう。向かった先は予想通りバスルームで、彼はゆっくりと私を下ろした。

「衛士、私は」

 そこできちんと説明しようとしたが慌てて口をつぐむ。彼がどこかに電話をかけていたからだ。さっきから衛士の行動の意図が読めない。

「母さん? 突然だけれど茉奈の迎えに行ってほしいんだ。ちょっと未亜が迎えに行くのが難しそうで……。ああ。その後、実家で見ていてくれないか?」

「え、衛士!」

 勝手に話を進める衛士に思わず抗議の声をあげる。すると衛士はなにを思ったのか私にスマートホンを差し出してきた。
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