極秘出産でしたが、宿敵御曹司は愛したがりの溺甘旦那様でした
「いや、役割じゃなく特権だな」

 特権は言いすぎだ。でも心が軽くなる。お礼を言おうとしたが、その前に小さくくしゃみをしてしまった。

「ほら、とにかく温まってこい」

 さりげなく衛士が私のワンピースのボタンをはずしにかかるが、素直に受け入れられない。

「でも、衛士だってそんな薄着で」

「俺はたいして濡れてないって言っただろ」

 彼が言い終えたのとほぼ同時に、私は衛士の唇に自分の唇を押し当てた。

「嘘。衛士も冷えてるよ」

 至近距離で呟き、彼に訴えかける。そっと頬に触れると、やはり彼も冷えていた。

「未亜だって」

「んっ」

 お返しと言わんばかりに今度は衛士から口づけられる。私からのキスよりも長くて甘い。

 一度唇が離れ、切ない気持ちで彼を見た。すると衛士は私の腰に回していた腕に力を込め、子どものように私を抱き上げた。

 両足が宙に浮き、衛士が大股で数歩移動する。次の瞬間、私はまだお湯が半分にも満たないバスタブの中に下ろされた。

 温度差の関係かお湯が熱湯みたいに感じて身をよじる。しかし衛士に手を引かれ、彼と向き合う形でその場に腰を下ろした。浸かった指先がじんじんと熱い。

 中途半端にお湯が溜まったバスタブの中、大人ふたりが服を着たまま向かい合わせで座っている。なんとも妙な状況に私は目を瞬かせた。

「まったく、強情だな、未亜は」

 呆れた口調の衛士は、私の頬を撫で不敵に笑った。
< 149 / 186 >

この作品をシェア

pagetop