極秘出産でしたが、宿敵御曹司は愛したがりの溺甘旦那様でした
「未亜」

『今までありがとう。元気でね』

 そこで電話は切れ、それ以降は繋がらなくなる。さっと血の気が引き、自分のしたことがいかに取り返しのつかないものだったのかを思い知った。

 なんとか未亜と話がしたい。けれど彼女は俺からの連絡を受け入れることはなく、さらには連絡先まで変えてしまった。

 家や彼女の職場近くに行き、どうにか会おうとするも徹底的に避けられる。電話の最後の言葉通り、俺とは二度と会わない、会いたくないという彼女の強い意志を感じた。

 どうして俺は軽く考えていたんだ?

 たかだか自分の名前を偽って、素性を隠していただけだ。後ろめたい家柄でも立場でもない。未亜だって杉井電産の社長令嬢だとは俺に打ち明けていない。

 どこかでそんなふうにおごっていた。

 未亜は父親経由にしろそうでないにしろ、自分に近づく男は未亜自身でなく家柄や父の立場に寄ってくるのだと断言していた。

 俺もそんな男のひとりだと思われたのか。嘘をついていたぶん、彼女のショックはきっと計り知れない。なにより――。

『他人を変えるのは難しいですから。自分やこちらの受け止め方を変えるしかないと思うんです』

 未亜はいつだって相手を責めたり責任を求めたりしない。自分の中ですべて解決しようとする。現に事実を知ったにもかかわらず彼女は俺をひと言も責めなかった。理由も尋ねなかった。

 どうしてだと尋ねられたら、責めてくれたらいくらでも言い訳した。未亜が納得するまで説明して、謝罪した。けれど彼女は、そんなものは一切望んでいない。
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