極秘出産でしたが、宿敵御曹司は愛したがりの溺甘旦那様でした
 そういう未亜の性格をそばでいた俺は、一番わかっていたはずなのに。

 悪いことは重なるものらしく、アメリカへの帰国が急に決まり、俺は未亜になにも伝えられないまま再びアメリカに渡ることになった。

 未亜を失ったダメージが大きすぎて、しばらくは仕事どころか生活さえままならない。俺はこんなに弱い人間だっただろうか。けれど傷つけた側の俺に悲しむ資格なんてない。

 気を取り直し、俺はひたすら仕事に打ち込んだ。

 早く忘れるんだ。今まで通り過ぎていった女性たちはなんの未練もなく、すぐに自分の中から消えていった。

 ところが未亜だけは、なにをしても思い出してしまう。それこそ雨が降れば、彼女が好きだと言っていた印象派の絵を見れば、嫌でも共に過ごした記憶がよみがえる。

 時折コーヒーではなく紅茶を口にしてみるが、やはり彼女が淹れたものには敵わない。

 朝食は基本取らないが、未亜が家に泊まったとき家にあるものでと作ってくれた甘くないパンケーキの味が忘れられない。

 ちょうど彼女はお気に入りのメープルシロップを購入していて、多めにかけていた。その後、交わしたキスはいうまでもなく甘かった。

『衛士』

 未亜の笑顔が、声が脳裏に焼きついてずっと消えない。とはいえ今の俺にできることは、ただ彼女の幸せを願うだけなのか。

 日米合同の新規事業の立ち上げが上手くいきそうな頃合いで、俺は日本に帰国した。
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