極秘出産でしたが、宿敵御曹司は愛したがりの溺甘旦那様でした
 まだ自分の子どもだって実感どころか、信じられない気持ちだって……。

「ああ。そうかもしれない」

 予想外の反応に顔を上げる。目を瞬かせる私に衛士は微笑み、そっと私の頭に触れた。

「未亜と俺との子どもなんだな」

 噛みしめるような穏やかな表情に、私はなにも言えなくなった。続けて彼が腕時計を確認したので、思考が切り替わる。

「ごめん。仕事に向かって」

 そのときリビングから予想通りお気に入りのぬいぐるみを抱えた茉奈がやってきた。

「こーれ、いりん!」

 まるで見せびらかすように衛士に差し出す。おそらく本人は「きりん」と言いたいらしい。叔父からのお土産で、最近は寝るときも一緒だ。

「茉奈の友達を見せてくれてありがとう」

 衛士は茉奈の頭をよしよしと撫でる。すると茉奈は満足そうにぬいぐるみを持ってまた奥へ走り去っていった。 

「また少しでもいいから時間をとってくれないか?」

 茉奈を見送った後、打って変わって神妙な面持ちで衛士が告げてくる。

「……うん」

 断る選択肢はない。結婚はさておき茉奈のことについてはきちんと話し合わないと。でも、それはいつ?

 彼がドアを開けて出ていこうとした瞬間、早口で捲し立てる。

「あ、あのね。茉奈は、平日は九時前とかわりと早く寝てくれるの。今日も疲れているみたいだし。だからそのあとなら話せると思う」

「電話で?」

 すかさず切り返されたが、なぜかその顔は厳しかった。

「……ここに来てくれてもいいよ」

 最初からそのつもりで提案したのに、衛士は目を白黒させている。
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