極秘出産でしたが、宿敵御曹司は愛したがりの溺甘旦那様でした
 彼にとっては突拍子もない申し出だろうか。けれど茉奈がいるとなかなか落ち着いて話せないし、平日の昼間は私も仕事がある。

 土日や保育園が終わってから陽子さんに改めて茉奈を預けるのも気が引けた。

 そうやってスケジュールの調整をしていたら次はいつ会えるかわからない。とはいえ、それはすべて私の都合と気持ちだ。

「あ、でも仕事が忙しいだろうから改めて都合をつけてでも」

「未亜」

 補足する私を衛士が名前を読んで静かに制した。再び私たちの視線が交わる。

「あまり遅くならないようにする。だから今日でかまわないならこうして直接会いたい」

「……うん、わかった」

 素直に返すと不意に彼から距離を詰められ、肩に触れられたかと思ったらそのまま軽く頭にキスを落とされる。

「また連絡する」

 呆然とする私をよそに衛士はなんでもなかったかのように涼しげに告げ、去っていた。

 こういったことをさり気なくしてしまえるのは、付き合っていたときから変わらない。きっとアメリカでは挨拶みたいなものなんだ。

 しっかりしないと。衛士とは茉奈の父親として会うだけで、昔の想いに引きずられるわけにはいかない。

 終わっているんだ、私たちは。ううん、むしろ始まってさえいなかったのかもしれない。

 なかなか部屋に来ない私を心配してか、茉奈がやって来る。手にはやっぱりぬいぐるみを持ったままで、私は彼女を抱き上げた。

 くっきりとした目鼻立ち、大きな目。衛士と再会して、ますます茉奈は彼の娘なのだと実感する。
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