極秘出産でしたが、宿敵御曹司は愛したがりの溺甘旦那様でした
 衛士はきっと意識していない。なにをしてもいちいち様になる彼に、私はこうしていつも胸をときめかせていた。

 ネクタイにかける長い指、骨ばった大きな手、整った横顔。懐かしいようで今は知らない大人の男性だ。

 あのときとは、お互いの気持ちも関係も大きく変わっている。

「適当に座って」

 そそくさとキッチンに逃げ込み、紅茶を淹れるためお湯を沸かそうと準備にかかる。衛士はダイニングテーブルの椅子に腰を下ろし、室内に視線を飛ばしはじめた。

「仕事、忙しい?」

 なんとなく沈黙に耐えられず自分から話題を振った。

「忙しいというより先月帰国したばかりで、正直仕事はおろか生活もまだ落ち着いてないんだ」

「そう、なんだ」

 衛士は淡々と話すが、その中で子どもの存在を知らされ、こうして会いに来てくれているのだと思うとわずかに申し訳ない気持ちになる。

 お茶でも飲みながら落ち着いてと思っていたが、私は本題を急いだ。

「あの、これからのことなんだけれど」

 早く話をまとめてしまおう。声をかけると衛士もこちらに視線を寄越した。私は手元に視線を落とし、決めていた自分の言い分を早口で主張する。

「今まで通り茉奈は私が育てていくから衛士は好きなときに、もしくは茉奈がもう少し大きくなって会いたいってなったときに時間を作ってもらえたらって思ってる。……それと、もし父親として接するつもりなら、茉奈のためにできれば認知を」

「未亜」

 話を遮るように名前を呼ばれ、私は顔を上げた。正面にあった衛士の姿はなく、気づけば彼はキッチンスペースに足を踏みいれ、私の左隣に来ていた。
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