極秘出産でしたが、宿敵御曹司は愛したがりの溺甘旦那様でした
 一度、ぐっと口の中の唾液を嚥下し、思いを口にする。

「思っていないよ。衛士を嫌ってもいないし、恨んでもいない」

 そうだ。あんな別れ方をして、一方的に想いを断ち切って、苦しかったしつらかった。でも彼だけを責める気にはなれない。だって――。

「衛士が自分の仕事や家のことを深く話さないから、私も自分が杉井電産の社長の娘だって話さずにすんだから」

 ふたりの間に仕事の話がまったくなかったわけじゃない。私は事務職だと話し、彼は普通のサラリーマンだよ、と笑っていた。

 そこで具体的な仕事内容や勤め先を尋ねていたら、自分も答えなくてはいけないと思った。私が杉井電産の社長の娘だと知られたくない。とはいえ嘘をつくのは嫌だ。

 衛士はそんな私の心を見透かしているみたいに、仕事や両親のことを聞いてくるような真似はせず、あまり話題にしなかった。

 ホッとする反面、彼の仕事や家柄を具体的に知らなくても、彼自身を見て衛士を好きだと思っていた。

 衛士の前なら、気を張らずにいられる。父や家の事業などの肩書きをまとっていない私を必要として愛してくれている。嬉しくて、幸せで彼とずっと一緒にいたい。

 ただ現実は違っていただけだ。

 私は無理やり笑顔をつくった。

「もういいよ、謝らないで。衛士と付き合っている間、私は幸せだったから」

 衛士の気持ちも当時の思惑もわからない。たた、これだけは揺るぎない真実だ。茉奈だって彼がいたから授かれた。
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