極秘出産でしたが、宿敵御曹司は愛したがりの溺甘旦那様でした
 唇をぐっと噛みしめていると、不意に頬に手を添えられ上を向かされた。先ほどとは違って揺れない瞳に捕まる。

「未亜を誰にも渡したくないからだ」

 心臓を鷲掴みにされ、呼吸が止まりそうだ。

「私……」

 震える声でなにか返そうとするもうまくいかない。衛士は私のおでこにそっと自身の額を重ねてきた。

「今度は間違えない。未亜を傷つけた分、幸せにしてみせる。絶対に」

 強い決意が嫌でも伝わる。心臓が打ちつけて胸が苦しくなり、顔を背けたいのにそれも叶わない。でも、これだけは言っておきたい。

「い、今の私の幸せは茉奈の幸せなの。だから茉奈のことを一番に考えてほしい」

 はっきりと告げると、衛士はかすかに笑った。

「わかってるよ」

「本当に? ラグエルの跡取りにしようとか結婚相手とか、茉奈の未来を勝手に決めたりしない?」

「未亜みたいに?」

 勢いづいていた私は、衛士の切り返しで止まった。言葉に詰まったのは図星だったからだ。茉奈には私みたいな思いはしてほしくない。

 わずかな沈黙の後、衛士が続ける。

「そんなつもりはない。ただ、たくさんの可能性を用意してやるのは悪いことじゃないはずだ。一緒に茉奈に寄り添って、茉奈の意思を尊重していこう」

 穏やかな声と論理的な言い分にわずかに気持ちが落ち着く。素直に頷きそうになって、はたと気づいた。

「なんだかこの流れ、結婚するのが前提で話が進んでない?」

 唇を尖らせて尋ねたら、彼は口角を上げにやりと笑った。懐かしい、余裕めいた衛士の表情。 
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