極秘出産でしたが、宿敵御曹司は愛したがりの溺甘旦那様でした
 中心部にある上の階と繋がっている大きな円筒の水槽は、この水族館の目玉のひとつだ。茉奈と一緒にあれこれ泳ぐ海の生き物を目で追いかける。

 そして茉奈の興味が一段落したところで場所を移動する。

「前に来たときとレイアウトが変わっているな」

「そうだね。イルカショーの回数も増えてるし」

 思い出交じりに話しながら、衛士は改めて茉奈を抱っこする。さすがにずっと片手だけで抱いておくのはきついのか、今度は両手でしっかりと茉奈を支えていた。

 必然的に私の手は空き、その手を今度は自分から衛士の腕に持っていく。意外だったのか、衛士が私の方を驚いた顔で見た。

「はぐれないようにと思って……だめかな?」

 ぎこちなく返したら衛士は茉奈を抱っこしたまま相好を崩す。

「むしろ嬉しいよ。両手に花だな」

 文字通り幸せそうな衛士に、繋いでもらってばかりじゃなくて私から手を伸ばしてもいいのかもしれないと思った。離れたくない、そばにいたいって。

 あのとき彼から手を離されて、私は抗わなかった。今みたいにしていたらなにか変わっていたのかな。

「未亜」

 名前を呼ばれ我に返る。

「せっかくだからイルカショーを見に行こう」

「う、うん」

 過去に思いを馳せてもなにも変わらない。私と衛士が今、こうして幸せを噛みしめていられるのは、私たちの関係云々の前に茉奈がいるからだ。それを忘れてはいけない。
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