極秘出産でしたが、宿敵御曹司は愛したがりの溺甘旦那様でした
 衛士はエアコンのリモコンに手を伸ばし空調を調節すると、続けてそっと茉奈の頭を撫でた。その表情は優しさで満ちあふれている。

「行こう。ドアは少し開けておくし、リビングはすぐそばだから」

「……うん」

 少しだけ後ろ髪を引かれつつ衛士に促され、私たちはリビングへ移動した。

 テーブル、ソファ、壁掛けテレビに本棚。モノトーンでまとめられた部屋は衛士の言葉通り必要最低限のものしかない。もっと言えばこれ以上、増えそうな気配はあまりない。

 モデルルームでさえ、もっと使用感というか娯楽品が置いてあるだろう。広々さが逆に寒々しく感じる。

「コーヒーでいいか?」

「あ、お気遣いなく」

 問いかけられキッチンに立つ衛士を見る。

「広いね」

 なにげなく呟くとコーヒーのセットをし終えた彼がゆっくりとこちらに近づいてきた。

「未亜。茉奈と一緒にここで暮らそう」

「え?」

 たしかに彼からのプロポーズを受け入れたし、部屋数や広さからしてファミリータイプなのは明らかだが、彼が引っ越したことさえ今日初めて聞いたのだ。

 しかし衛士は真剣な面持ちで畳みかけてくる。

「ここなら茉奈の保育園や未亜の職場から近いだろ。叔父さん夫婦とも近いから会いに行きやすいし、遊びに来てもらってもいい」

「ちょ、ちょっと待て。そんな相談ひと言も……」

 思わず頭を抱えてしまう。突然すぎる状況についていけない。結婚を承諾したが、入籍やこれからのことなどまだなにも決めていなかったはずだ。
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