極秘出産でしたが、宿敵御曹司は愛したがりの溺甘旦那様でした
『えっ? してない。そんな顔してないよ。心配かけてごめん』

 せっかく衛士と会えたのに暗い顔してた? 指摘されるほどあからさまな表情をしてる? しっかりしないと。

 両手で頬を押さえ、顔を見られないよううつむき気を取り直そうと躍起になる。

『未亜』

 そこで衛士に名前を呼ばれ、おずおずと彼の方を向いた。衛士は押さえつけていた私の頬を労るように、優しく触れて私と視線を合わせる。

『我慢しなくていい。俺の前でまで無理に笑う必要はないんだ。未亜がいつも頑張っているのをちゃんとわかっているから』

 彼の言葉に心が揺さぶられる。確信めいたやりとりはしていないのに、貼りつけていたなにかがいとも容易く崩れそうになる。

『あの、私……』

 なにか言い返さないと、と思うのに上手く声にならない。それよりも違うものがあふれそうだ。

 そんな私を見越してか、衛士は私を隠すように真正面から抱きしめた。

『大丈夫。そばにいるから』

 優しい声と温もりに、視界が一気に滲む。泣くなんて久しぶりだ。まさか大好きな彼の前で泣くことになるなんて。

 違う。衛士だから泣くことができた。頭や背中を撫でる大きな手のひら、伝わる温もり。なにもかもが愛しくて手放したくない。

 衛士は私が落ち着くまで抱きしめてくれていて、その後も泣いた理由を無理に聞き出そうとしなかった。

 なにかを許された気がして、衛士には自分の弱いところをさらして素直に甘えられるようになった。ますます彼と離れがたくなるだけだったのに。
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