極秘出産でしたが、宿敵御曹司は愛したがりの溺甘旦那様でした
「私は……杉井電産の社長の娘なのに?」

 おそらく当時の父には大反対された。無理やり引き裂かれる可能性だってある。私も衛士の正体を知って、それでも素直に結婚や彼を受け入れられたのかと思えば、なんとも言えない。

「そうだな。きっと杉井社長は納得しないだろうし、未亜は父親と俺との板挟みでつらい思いをしたと思う」

 衛士の予想は間違っていない。おそらく衛士と結婚したいと伝えたら、父は怒り狂って杉井電産か彼かの選択を迫っただろう。

 それこそ親子の縁を切ると勘当を言い渡されることも免れられなかった。父にしてみれば私が衛士と結婚することは大きな裏切りだろうから。

 それらをわかったうえで、私は彼のプロポーズを受け入れたのかな。

「だから自分の想いを伝えたら未亜を苦しめるんじゃないかと悩んだときもあった。このまま〝高野衛士〟として未亜の前から姿を消すのが一番なんじゃないかって」

「そんなっ」

 反射的に声をあげる。衛士がそこまで考えていたなんて思ってもみなかった。

 衛士の正体を知ったときは、嘘をつかれていたこと、彼の隠していた素性に裏切られた気持ちが強くて苦しかった。

 一方で、すべてを知っている衛士は衛士なりに考えることが多かったのかもしれない。

 私、自分のことばっかりだった?

 ズキズキと今度は違う痛みが胸を襲う。そこで衛士は頭に触れていた手を私の頬に移動させた。瞬間、指先がひんやりとしていることに驚く。彼の緊張が伝わってきて私も身を硬くした。
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