極秘出産でしたが、宿敵御曹司は愛したがりの溺甘旦那様でした
「嘘なんて」

「ついている、わかるよ」

 このやりとりには覚えがある。茉奈の存在を彼に白状したときと同じだ。あのときも彼はこうやって断言した。

 衛士が私の頬に手を添え、かすかに笑う。

「未亜は俺と再会してから、ずっと泣くのを堪えた顔をしている」

 そう言った衛士のほうが今にも泣きだしそうで、今度こそ私は動揺が隠せない。

「そ、そんなこと」

「未亜」

 衛士が静かに名前を呼び、視線も意識も彼にしっかりと向けさせられる。

「未亜は俺と別れてから、ひとりで立ち上がろうとしたんだろ。泣くのを我慢して、痛いって口にも出さずに」

『泣かないのが、偉いわけじゃない。そんなふうに言ったら痛いって言えなくなっちゃうよ』

 さっきの水族館での自分の発言が頭をよぎる。あれは茉奈に対してだった。でも本当は――。

「平気、だよ。今までもそうやって立ち直ってきたから。衛士にも事情があるんだってわかっていたから、だから……」

 お腹に力を入れてたどたどしく返したが、それ以上は声にならない。唇を真一文字に結んで込み上げそうになるものを懸命に抑え込む。

 衛士に出会って私は弱くなった気がする。優しく泣かせてくれる彼に癒されて、かけがえのない存在になっていった。

 そのぶん、なくしたときの喪失感は言い知れないものになる。母を亡くしたときにも思い知ったのに。

『大丈夫、私は大丈夫』

 痛みを誤魔化して、心の中でうずくまっている自分に必死で言い聞かせる。私自身で折り合いをつけて立ち上がるしかない。ずっとそうやってきたんだからできるはずだ。
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