極秘出産でしたが、宿敵御曹司は愛したがりの溺甘旦那様でした
「ん」

「可愛い」

 余裕たっぷりに囁かれる間も衛士の手は私に触れ続けている。彼の手が脇腹から胸元に移り私も観念しようかとしたところで、なにかが聞こえた。

 それは衛士も同じだったらしい。ふたりの動きがほぼ同時に止まり、音に集中する。続けて小さな声が聞こえ、私は慌てて衛士の腕をすり抜けた。

 廊下に出ると声は確かなものになり、寝室のドアを開けるとベッドの上でちょこんと座っている茉奈の姿があった。

「ま、まー」

 私を探して呼んでいたらしいが、どうやらまだ寝ぼけている。これがしばらくすると、そばに私がいないと気づき火がついたように泣き始めるから助かった。

「茉奈、起きた?」

 癖のある髪はあちこちぴょんっと跳ねて、まだ目はとろんとしている。茉奈は慌てて立ち上がり、バランスを取りながらベッドの端までたどたどしく歩いてきた。

 受け止める形でぎゅっと抱きついてくる茉奈を私も抱きしめ返す。寝起きだからか体温が高い。そして乱れっぱなしの心を整える。

 茉奈がいるのに、しっかりしないと。

 もっと触れてほしかったと残念がっている自分を内心で叱責した。

 けれど衛士とのキスや体に添わされた彼の手の感触が、大きな余韻となってなかなか消えない。

 ひとまず茉奈のおむつを替え、水分を補給させた後、リビングへと戻った。妙に緊張してしまうのは仕方ない。
< 94 / 186 >

この作品をシェア

pagetop