ココロの距離が離れたら


「綾! 遅いじゃん!」

先にカフェについていた幸にちょっと文句を言われる。

「仕方ないじゃん!急なんだもん!」

 さすがに、昨夜大智のマンションに外泊しちゃったから、一旦自分のマンションに戻って着替えした分遅くなった、とは言いにくい。恥ずかしくて。うん。
でもまぁ、この親友には色々とお見通しな気がするけど。

「ここオープンしたばっかりだったから、平日は劇混みでしょ? 休日の早い時間に入ったらいいかなと思って。狙ってたの」
「確かに!一度は来てみたいと思ってた」

そのカフェは、ベーグルサンドが美味しいと評判のカフェで、会社にほど近い分、平日のランチに来たかった場所だった。ただ、外観のおしゃれさやベーグルサンドの美味しさから連日行列ができていて、ほとぼりが冷めるまでは来れないだろうと考えていた場所だった。
先に到着して、席をとってくれた幸には感謝だ。
幸はアボガドのクリームチーズのサンド、綾はサーモンとオニオンにして、お互い、カフェオレを注文する。今日はゆっくりするつもりだった。

「ね、綾、あれ相談できたの?」
「ん?」

 幸はふふふんという目線で、綾を見る。幸の髪はショートで、大振りなイヤリングが似合う女性で、168センチと背が高い。大智と同じ営業部に所属していて、実際に営業成績も良いほうなんだとか。綾の身長は160センチ。まぁ普通。そして、栗色の髪は柔らかなウェーブで肩下に下している。幸といると極々普通の自分が女性っぽく見えるから不思議だ。
そんな幸の最近の心配事は、目下。私と大智のことだ。

「長期出張よ!大智と相談できたの?」
「あー・・・まだ、です。」
「なんですってぇ!?」
「あ、いや、幸さん・・・お静かにね?」

とはいえ、幸の驚きは当然と言える。部長からの話しを受けて、一番最初に連絡したのは大智だったが、次は幸に伝えている。幸に至ってはその日の夜に夕食がてら全て話しているのだ。
2週間経っているのに交際相手が知らないなど、信じられないだろう。
まさに、私も信じられない。

「だから、私が話すって言ってるじゃん!同じフロアなんだよ!?あいつ、いくら忙しいからって!」
「まぁまぁ幸さん」

幸がこうして怒ってくれるから、綾は冷静になれる。
本当によくできた友達だと思う。

「まだ、1週間あるから。」
「そうは言ってもね? 来週の予定も立ってるの?」
「・・・」
「綾」
「・・・」
「綾? 今から営業部に乗り込むよ?」
「待ってっ!」

本当にやりそうで怖い。だって今日は会社にいるのだ。笑えない。

「来週の話しもできてないの」
「綾? 誕生日でしょ?」
「うん、そうなんだけど・・・」

言葉を濁して、溜息を一つついたところで、美味しそうなベーグルサンドとカフェオレが運ばれてきた。
手を合わせて、頂きますと言って、まずは頂く。

「うわぁ、このベーグルって美味しい!やっぱりゴマが効いているのかな、サーモンもすごく良い!」
「うん、確かに! アボガドも美味しい!」

ひとまずは美味しくいただく。
温かいものは温かいうちに。せっかくの出来立ては出来立てのうちに。
シャキシャキしたレタスも、玉ねぎもサーモンの甘さを引き立てていてとても美味しい。
今朝の気分の悪さも一掃できたような気分だったが、幸が綾を見る瞳の強さは変わらない。
大きめのベーグルをゆっくり食べながら、幸は溜息をついた。

「あのさ、綾。綾に経理の立ち上げの依頼が来て、しかも返事を待ってくれるってことはね」
「・・・うん」
「実際は、本当に長期出張なの?」

ぎくり。

「長期主張ごときで、回答をこんなに待ってくれるかな?」

ぎくぎく。

「場所はどこなの」

うーん。
この部分はまだ幸にも伝えていない部分だった。
大きな会社だからこそ、今立ち上げている支所は複数ある。そのうちのどこか、なのだが。

「まぁ、場所は。待ってね。まだ私も悩んでいるから」
「結局そこね、綾自身も悩んでしまっているという」
「だってさ、自信がないの」

そうなのだ。綾には全く、自信がない。
自分が立ち上げ要員として経理部門の立ち上げができるのか、ということも。
そして、何より。
大智と遠距離で付き合いが続くのか、ということも。
後者に至ってはもう全くと言っていいほど、自信がない。

「もう3年経ってるんだけどね、最近なんだかヘンな感じなんだぁ」
「倦怠期、ってやつ?」
「どうなのかな? 私は変わっているつもりないんだけど、大智は違う気がする・・・」

交際1年目は、全ての月の、全ての行事がキラキラしていて、大智といる時間が嬉しかった。
好きだよ、愛してるよって事あるごとに伝えてくれる大智の愛情が恥ずかしくもあり、それ以上に幸せで。

2年目は、ちょっと慣れてきて、2人で一緒にいることが普通に思えるような時間が多くて。

そうして3年目は会う時間が減ってしまって。
綾1人が寂しくて、綾1人が大智のために動いて、大智の予定に合わせている。
それでも、彼に会えるならそれでもいいけど。

最近、好きだよって、愛してるよって言ってくれたのはいつだったか。
もう、覚えていない。
それに気づいて青ざめる。

「まぁ、あいつも不器用なところあるからね、1つしか見えなくなるっていうかね」
「うん。良いところ、なんだと思うの。だから、応援してあげたいって思っていたんだけど」

そう言葉を濁した時だった。
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