転生うさぎ獣人ですが、天敵ライオン王子の溺愛はお断りします!~肉食系王太子にいろんな意味で食べられそうです~
「それと……ここはいい場所だね。空気も澄んでいるし、村の人は親しみやすくて、今まで知らなかったのがもったいないくらい」
座ったまま、レオン様は気持ちよさそうに深呼吸をしながら伸びをした。
「まるで、ノーブルじゃない場所にいるみたいだ」
彼のその言葉に、私は大きな引っかかりを感じた。怖さと緊張でいっぱいだった胸の内が、もやもやしたものに変わっていくのがわかった。
「……それはそうでしょうね。ここは国の上に立つ人たちが、権力がないとみなした小動物系獣人を隔離するために作った村だもの。国が誇る栄えた王都や町とは大違いで当たり前です」
冷静に言いながら、心までスゥッと冷めていく感覚に陥る。この感情はなんと呼べばいいだろう。怒りと落胆が入り混じった、変な気持ちだ。
突然淡々と話し始めた私を見て、彼は慌てながら口を開いた。
「ごめん。そんなつもりで言ったんじゃないんだ。僕なりのこの村への褒め言葉で……」
「レオン様はここで暮らしたことがないから軽はずみに〝いい場所〟なんて言えるんです。食べるものも自給自足で、おしゃれもろくに楽しめない。医者はひとりしかいないから病気になったらたいへんで、薬も足りない。だけど王都や町へ行くまでには道のりが長すぎる。それなのに馬車は存在しない……そんな生活、あなたに想像できますか? 王家の方なら知ってますよね。村の住人数名が一斉にレガーメに移住したことも」
「それは……」
気まずそうに、レオン様は口をつぐんだ。
上流階級の人たちが贅沢でいられるのは、私たちが我慢を強いられているからだ。だんだんと苛立ちが増してきて、私は止まらなくなる。
「綺麗なところしか見ないで〝いい場所〟だなんて言われたくありません。やっぱり、私とあなたでは住む世界が違うと思います。婚約するつもりはありませんし、ここへはもう来ないでください。……私がレオン様と結婚したらなにかが変わるかもなんて無駄な期待を、これ以上村人たちにさせるのも心苦しいので」
実際この一週間、みんなから注がれる期待の眼差しが、私には苦しく感じられていた。
村から王子の結婚相手が選ばれたとしたら、これは国を騒がす一大ニュースとなるだろう。私が王妃になれば差別社会も終息を迎えるかもしれない、なんて淡い期待を、みんな抱いていたに違いない。だけど私は、そのために好きでもない相手と結婚することは考えられなかった。
……こんな甘いことを言ったら笑われると思うけど、自分の幸せは自分で決めたい。私は昔出会った人間の彼のことを、今でもずっと忘れられない。というかレオン様と結婚するならベルとしたい。
「リーズの言う通りだ。立場が違う身で、意図は違えど軽率な発言だった。君を嫌な気持ちにさせてしまい、悪かった」
再度きっぱりと私に婚約を拒否されたレオン様は、ふぅと小さく息を吐いたあと、立ち上がって私に頭を下げた。
国の王族という立場にありながら、平民以下ともいえる私にきちんと謝罪をすることには驚いた。どちらかというと、言い返した私が無礼者だと扱われる立場なのに。
「頭を上げてください。ジェイドさんがこの状況を見たら何事かと思われますよ」
「いや、悪いことをしたら謝るのが筋だ。それにジェイドならこの図を見ても、僕が懲りずに婚約を申し込んでいるくらいにしか思っていないさ」
……言われてみれば。会話が聞こえていないと、改めて婚約を申し込んでいるようにも見える。
ちらりと木陰で涼むジェイドさんの様子を窺うと、腕を組みながらじっと私たちのほうを見ているだけで、こちらに来る素振りはない。
「リーズ。いまさらこんなことを言って都合がいいと思われるかもしれないが、僕はこの差別社会を変えていきたいと思ってる」
「……差別社会を変える?」
私の耳がピクリと反応した。たしかに時期国王になる可能性の高い彼なら法律を変えることは不可能ではないだろう。
しかし、これは私が生まれる前からある問題。そう簡単に、上流階級の人たちの賛同を得られるとは思えない。
「だからこの村のことも、村に住む獣人たちのことももっと知りたいんだ。ここへ来たのはもちろん婚約者探しの延長でもあったけど、それだけじゃない。冷やかしや気まぐれで、毎日通ってるつもりもない。……君を一目見て心を奪われたことも、嘘じゃないよ」
私と目線を合わせるように、レオン様は片膝を立てて屈んだ。
いつか差別をなくす社会を作るために、村がどんなところか探りに来ていたってこと?
なんとも都合のいい話だ。そんなこと言って、この一週間、特に村をじっくり見て周ることなく帰っていたじゃない。
私を見つめる真剣な眼差しに、嘘はないようにも思えるけど……。
座ったまま、レオン様は気持ちよさそうに深呼吸をしながら伸びをした。
「まるで、ノーブルじゃない場所にいるみたいだ」
彼のその言葉に、私は大きな引っかかりを感じた。怖さと緊張でいっぱいだった胸の内が、もやもやしたものに変わっていくのがわかった。
「……それはそうでしょうね。ここは国の上に立つ人たちが、権力がないとみなした小動物系獣人を隔離するために作った村だもの。国が誇る栄えた王都や町とは大違いで当たり前です」
冷静に言いながら、心までスゥッと冷めていく感覚に陥る。この感情はなんと呼べばいいだろう。怒りと落胆が入り混じった、変な気持ちだ。
突然淡々と話し始めた私を見て、彼は慌てながら口を開いた。
「ごめん。そんなつもりで言ったんじゃないんだ。僕なりのこの村への褒め言葉で……」
「レオン様はここで暮らしたことがないから軽はずみに〝いい場所〟なんて言えるんです。食べるものも自給自足で、おしゃれもろくに楽しめない。医者はひとりしかいないから病気になったらたいへんで、薬も足りない。だけど王都や町へ行くまでには道のりが長すぎる。それなのに馬車は存在しない……そんな生活、あなたに想像できますか? 王家の方なら知ってますよね。村の住人数名が一斉にレガーメに移住したことも」
「それは……」
気まずそうに、レオン様は口をつぐんだ。
上流階級の人たちが贅沢でいられるのは、私たちが我慢を強いられているからだ。だんだんと苛立ちが増してきて、私は止まらなくなる。
「綺麗なところしか見ないで〝いい場所〟だなんて言われたくありません。やっぱり、私とあなたでは住む世界が違うと思います。婚約するつもりはありませんし、ここへはもう来ないでください。……私がレオン様と結婚したらなにかが変わるかもなんて無駄な期待を、これ以上村人たちにさせるのも心苦しいので」
実際この一週間、みんなから注がれる期待の眼差しが、私には苦しく感じられていた。
村から王子の結婚相手が選ばれたとしたら、これは国を騒がす一大ニュースとなるだろう。私が王妃になれば差別社会も終息を迎えるかもしれない、なんて淡い期待を、みんな抱いていたに違いない。だけど私は、そのために好きでもない相手と結婚することは考えられなかった。
……こんな甘いことを言ったら笑われると思うけど、自分の幸せは自分で決めたい。私は昔出会った人間の彼のことを、今でもずっと忘れられない。というかレオン様と結婚するならベルとしたい。
「リーズの言う通りだ。立場が違う身で、意図は違えど軽率な発言だった。君を嫌な気持ちにさせてしまい、悪かった」
再度きっぱりと私に婚約を拒否されたレオン様は、ふぅと小さく息を吐いたあと、立ち上がって私に頭を下げた。
国の王族という立場にありながら、平民以下ともいえる私にきちんと謝罪をすることには驚いた。どちらかというと、言い返した私が無礼者だと扱われる立場なのに。
「頭を上げてください。ジェイドさんがこの状況を見たら何事かと思われますよ」
「いや、悪いことをしたら謝るのが筋だ。それにジェイドならこの図を見ても、僕が懲りずに婚約を申し込んでいるくらいにしか思っていないさ」
……言われてみれば。会話が聞こえていないと、改めて婚約を申し込んでいるようにも見える。
ちらりと木陰で涼むジェイドさんの様子を窺うと、腕を組みながらじっと私たちのほうを見ているだけで、こちらに来る素振りはない。
「リーズ。いまさらこんなことを言って都合がいいと思われるかもしれないが、僕はこの差別社会を変えていきたいと思ってる」
「……差別社会を変える?」
私の耳がピクリと反応した。たしかに時期国王になる可能性の高い彼なら法律を変えることは不可能ではないだろう。
しかし、これは私が生まれる前からある問題。そう簡単に、上流階級の人たちの賛同を得られるとは思えない。
「だからこの村のことも、村に住む獣人たちのことももっと知りたいんだ。ここへ来たのはもちろん婚約者探しの延長でもあったけど、それだけじゃない。冷やかしや気まぐれで、毎日通ってるつもりもない。……君を一目見て心を奪われたことも、嘘じゃないよ」
私と目線を合わせるように、レオン様は片膝を立てて屈んだ。
いつか差別をなくす社会を作るために、村がどんなところか探りに来ていたってこと?
なんとも都合のいい話だ。そんなこと言って、この一週間、特に村をじっくり見て周ることなく帰っていたじゃない。
私を見つめる真剣な眼差しに、嘘はないようにも思えるけど……。