転生うさぎ獣人ですが、天敵ライオン王子の溺愛はお断りします!~肉食系王太子にいろんな意味で食べられそうです~
「それにしても、国一番って言っても過言じゃない男を振って、リーズがこの先選ぶ結婚相手っていったいどんな人なのかしらね?」
 机の上で頬杖をつきながら、マリルーがクッキーに手を伸ばしながら言う。
「リーズには初恋の人間がいるからな。今でもそいつを忘れられないのだろう」
 私より先に、ベルがマリルーに答えた。
「あたし、その話くわしく知らないんだよね。ねぇ、どんな人なの?」 
 そういえば、ベルには何度も話したことあるけど、マリルーには言ってなかったっけ。
 奇跡みたいな出会いだったから、誰にも言わずに秘密の思い出としてとっておきたかったのよね。ベルにはなんでも話しちゃうから、結局自分だけの思い出にはできなかったけど。
 もう十三年も前のことだし、親友のマリルーにも話していいかな。
「私たちが五歳のころ、王都で大きなパーティーが開かれたの覚えてる?」
「ああ! あったわね。建国記念パーティーでしょう? 外国からもいろんな人がたくさん来国してたって。王都に打ち上げられた花火を村から見たのをよく覚えてるもん。小さくしか見えなかったけど、綺麗だったなぁ……」
 マリルーは当時の光景を思い出しているのか、目を閉じてうっとりとしている。
「あの日、花火が上がるって噂を聞いて、私は村と王都を繋ぐ山道を登ったの。途中にある高原で花火を見ようと思って。その道中のことよ。人間の男の子に出会ったのは」
 私も話しながら、瞳を閉じれば瞼に浮かぶ彼のことを思い出す。
「その子はパーティーに呼ばれていたってこと? だったら貴族か外国の王族?」
「きっちりとした身なりだったし、多分そうだと思う」
 記憶の中にある彼は、ペラペラの布で作られた私のワンピースとは大違いな、高そうな衣服を纏っていたような気がする
「なにそれ。ずいぶんと曖昧なのね」
「だって情報が全然ないんだもの。知っているのはレガーメに住む人間だってことくらい。年齢は私よりちょっと上くらいで、銀髪でとっても整った顔をしていたわ。なにより忘れられないのは……」
「忘れられないのは⁉」
 マリルーが興味津々に身を乗り出す。いけない。思い出すだけでにやけてきた。
「……私のこと〝今まで出会った中でいちばんかわいい〟って言ってくれたの」
 両手を頬に当てて恥ずかしそうにそう言うと、マリルーは拍子抜けしたような顔をした。ベルに至っては耳にタコができるほど聞かされているので、〝またか〟という表情を浮かべている。
「へ? それだけ?」
「それだけって! かわいいだなんて、同年代の異性に言われたの初めてだったのよ⁉ しかもいちばんだって!」
「まぁ、村に同年代の異性はほとんどいないからね。初めてだったらたしかにきゅんとしちゃうわ」
「でしょう? 私、その時彼にお願いしたの。〝村に住むうさぎの女の子をいつか迎えに行ってあげて〟って」
「つまり、自分のことでしょ? この村にうさぎ獣人はリーズしかいないんだから。どうしてそんな遠回しな言い方をしたわけ?」
 実は、私はそのとき咄嗟に嘘をついてしまったのだ。自分はノーブルの獣人でなく、レガーメの獣人だと。
「はぁ⁉ なんでそんな嘘をつくのよ!」
「だって、勝手に高原まで行ったことがバレたらたいへんだと思って……!」
 あの日、パーティーに招待されていない者はむやみに外出をすることを禁止されていた。私はその禁止事項を、花火が見たいというだけで破ってしまった。その男の子にノーブルのうさぎ獣人に会ったと誰かに話されたら、確実に身元がバレてしまうと思ったのだ。
「事情はわかったけど……それで、その子はなんて返事をしてくれたの?」
「〝迎えに行くって約束する〟って。……うさぎの私を、差別のある狭い世界から救い出してくれるって言ってくれたの」
マリルーは感心して頷いた。
「さすが格差社会とは無縁のレガーメの人間ね。その子からすると、うさぎ獣人だからって差別される意味がわからなかったんだろうなぁ」
「リーズが五歳のときの出来事ならば、俺と出会うより前の話だ。つまり、そいつはリーズにとって初恋ってわけだ」
 補足するようにベルが言う。
「もうベル、自分が初恋の相手じゃないからってやきもち焼かないで。今の私は初恋よりベルが大事よ。それにその男の子、よく考えたらベルに似てたかも! 髪の毛も綺麗な黒髪だったし!」
「焼いていないし俺ではない」
 つんつんと人差し指でベルを突きながら甘えてみるものの、あっさりと切り捨てられた。いつになく塩対応だが、私はベルのこういうところも好きなのだ。
「そんな運命的な出会いを、リーズったら本当に思い出のままで終わらせていいの? こうしてる間に、幼いころの約束なんて忘れて、レガーメの美女にその人間の彼をとられちゃうかもしれないよ?」
 その可能性は大きい。レガーメには人間も獣人も暮らしている。どちらの種族の美女たちもたくさんいることだろう。
もう一度会いたいって気持ちはあるけど、名前も知らない彼と再会できたら奇跡だ。現実問題、今もこれからもレガーメに行けるような資金もない。
彼は私に、忘れられない初恋の思い出と、人間とレガーメへの憧れを残してくれた。それだけで、こんな小さな村での生活にも、希望を持って今まで生きてこられた。それはこの先も変わらない。
「いいの。今はベルが一緒だから。……ベルが結婚してくれたらいちばんいいのに。ねぇベル。私はいつでも嫁入りの準備はできてるからね?」
「そう言われても……俺にとって、リーズは妹みたいな存在だからな」
 予想通りの返答に、私はがっくりと肩を落とした。
「慣れたつもりでいても、やっぱり振られるとショックだわ」
 落胆する私を見て、マリルーは何個目かわからないクッキーをつまみながら口を開く。
「レオン様もあんたに振られるたび、今のリーズと同じ気持ちなんじゃない?」
「……」
 そう言われると、言葉が出なくなった。
 しーんとした部屋の中で、ふたりがクッキーをサクサクと貪る音だけが響き渡る。その音を聞きながら、私はちょっとだけ、レオン様に申し訳ない気持ちになった。――私がベルを想うほど、王子は私に対して本気じゃないだろうけど!
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