別れを選びましたが、赤ちゃんを宿した私を一途な救急医は深愛で絡めとる
いんげんの筋を取りながら言うと、重さんはできたばかりの肉じゃがを私に差し出す。


「なんでもそうだよ。料理をするのも、心春ちゃんみたいに丁寧に接客するのも。真心ってやつは見えないけど、伝わる人には伝わるんだ。これ、味見してみて」

「いただきます」


味見なんてしなくてもおいしいに決まってる。
重さんの料理にはしっかり心がこもっているもの。


「あー、これこれ。ジャガイモの中までしっかり味が染みてて最高です。幸せ」


重さんの肉じゃがは素朴な味わいだが、肉や野菜のうまみをしっかり感じられる逸品だ。


「心春ちゃんのその顔を見ると、俺も幸せだよ。さて、少し休憩」


重さんは厨房の丸イスに腰を下ろして、私の前にあるいんげんに手を伸ばして筋を取り始める。


「お休みになってください」

「これは調理のうちに入らないよ。心春ちゃんのその優しい心遣い、気づく人はたくさんいると思うよ」


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