別れを選びましたが、赤ちゃんを宿した私を一途な救急医は深愛で絡めとる
優しいのは重さんのほうだ。
弟子には厳しかったらしいけど、そんな面影はどこにもない。

それに厳しくしたのは、きっと弟子を一人前にするために違いない。


「恵子も言ってたけどさ、誰にだって幸せになる権利があるんだぞ。心春ちゃんの傷も丸ごと受け止めてくれる人が必ずいる。……って、また余計なことだと恵子に叱られるな」


ペロッと舌を出した重さんは、今度は黙々と筋取りを始めた。

実は私の背中には、右肩から脇腹まで二十センチにも及ぶ大きな切り傷があるのだ。

重さんの温かい言葉に感謝しながらも、この傷を見たことがないからそう言えるんだと思うところもある。


幼い頃に負った傷なのだが、ケガそのものは治癒(ちゆ)したのに、ケロイド体質だったせいで傷痕が赤く腫(は)れあがってしまった。外用薬や内服薬

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